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理学療法士として多くの患者さんを見てきて、ひとつ感じていることがあります。それは、ぶつけたり転んだりといった原因がはっきりしている場合を除くと、肩が痛い方の中には、猫背や巻き肩など、姿勢や体の使い方にクセが見られる方が少なくないということです。程度の差はあれ、共通したパターンが見られます。
ただ、実際には、患者さんご自身は「肩が痛いのは姿勢のせい」とは、ほとんど思っていません。多くの方が「歳のせい」「使いすぎ」「冷え」だと考えていて、姿勢と肩の痛みを結びつけてはいないのです。「肩が痛いから肩を揉む」けれど、すぐ戻ってしまう——そんな経験、ありませんか?
📋 この記事で見直したい3つのポイントは、次の通りです。
- 肩甲骨をやさしく寄せる
- ストレッチポールで背中・胸を開く
- フォームローラーで肩甲骨まわりをほぐす
大切なのは、胸を張って姿勢を固めることではなく、肩甲骨や背中をやさしくゆるめることです。どれも腕を高く上げにくい動きなので、痛みが出ない範囲であれば、肩に不安がある方でも取り入れやすい方法です。
私は理学療法士として2011年からリハビリの現場に携わり、整形外科・スポーツ領域での勤務に加え、パーソナルトレーナーとしての活動経験も持っています。現場では「姿勢が悪いから」と思われていた肩の不調が、肩や背中の動かし方を見直すことで変わっていく方を何度も見てきました。この記事では、姿勢と肩の痛みの関係を、研究と臨床経験をもとに整理していきます。
肩の痛みは姿勢の悪さが原因?
現場での実感としては、肩が痛い方には姿勢の崩れが見られることが多いと感じています。ただ、ここで誤解のないようにお伝えしておきたいのは、姿勢の悪さだけが肩の痛みの原因とは限らないということです。猫背や巻き肩があるからといって、誰もが必ず肩を痛めるわけではありません。
実際、背中の丸まり(胸椎の後弯)と肩の痛みの関係を調べたシステマティックレビューでは、猫背の程度は、肩の痛みがある人とない人で、はっきりとした差が出るとは言い切れないという結果が報告されています(Barrett et al., 2016)。「猫背だから肩が痛い」と単純に決めつけることはできない、ということです。
一方で、同じ研究では、背すじを伸ばした姿勢のほうが、丸まった姿勢よりも肩を上げられる範囲(可動域)が大きくなるという、はっきりとした傾向も示されています。つまり姿勢は、痛みの「直接の原因」というより、肩の動かしやすさに関わる要因のひとつと考えるのが自然です。
ですから、この記事でお伝えしたいのは「姿勢が悪いからダメ」という話ではありません。猫背や巻き肩が続くと、肩が動かしにくくなり、肩に負担が集まりやすくなることがある。だからこそ、見直す価値はある——そんな温度感で読んでいただけたらと思います。
猫背・巻き肩になると肩が痛くなりやすい理由

猫背だと、どうして肩が辛くなりやすいの?

肩そのものじゃなくて、肩甲骨の動き方が変わるからなんだ。順番に見てみよう。
猫背や巻き肩の姿勢では、肩そのものだけでなく、肩甲骨の位置や動き、その周りの筋肉の働き方が変わることが報告されています。腕をスムーズに上げるためには、肩の関節だけでなく、背中の上で肩甲骨が一緒に動いてくれることが大切です。ところが、背中が丸まった姿勢が続くと、この連携がうまくいきにくくなります。
イメージとしては、次のような流れです。
| ① 背中が丸くなる | 猫背の姿勢で胸の前が縮こまり、肩が前に入りやすくなる |
| ② 肩甲骨が動きにくくなる | 背中が丸いと、腕を上げるときに肩甲骨がスムーズに動きにくくなる |
| ③ 肩だけで頑張りやすくなる | 肩甲骨の助けが減るぶん、腕を上げるときに肩の関節だけに負担がかかりやすい |
| ④ 肩の前側・外側に負担が集まる | 同じ動作の繰り返しで、肩の前や外側につらさが出やすくなることがある |
スマホやパソコンを長く使う方は、頭が前に出て肩が内に巻いた姿勢になりがちです。デスクワークでキーボードを1日4〜6時間使う人は、ほとんど使わない人に比べて首や肩のつらさを感じやすいという報告もあります。こうした姿勢が積み重なると、肩甲骨が動きにくい状態が「クセ」になりやすいのです。
肩だけを揉んでも戻りやすい理由
肩が痛いとき、つい肩そのものを揉んだり、湿布を貼ったりしたくなります。もちろん、それが悪いわけではありません。マッサージにはその場で一時的に楽になる効果があることも、研究で示されています。
ただ、首や肩の痛みに対するマッサージの効果を調べたメタ分析では、マッサージの効果は短期的なもので、運動などの能動的なケアより優れているわけではなく、肩を動かしやすくする(機能の改善)という面でははっきりした効果が確認されていないと報告されています(Kong et al., 2013)。
これは、肩を揉んでもすぐ戻ってしまう経験と重なる方が多いのではないでしょうか。理由はシンプルで、肩に負担が集まりやすい姿勢や動き方が残ったままだと、また同じ場所がつらくなりやすいからです。痛い場所をほぐすことと、負担が集まる背景を見直すことは、別の話なのです。
マッサージや整体は「その場で楽になる」きっかけとしてうまく使いつつ、肩甲骨や背中が動きやすい状態を取り戻すことを少しずつ並行していく。これが、肩の負担を減らしやすい近道だと考えています。
良い姿勢は「胸を張ること」ではありません

じゃあ、胸を張ってピシッとすればいいんだね!

そこがポイント。実は、胸を張って固めるのは逆効果になることもあるんだ。
「姿勢が悪いなら、胸を張ればいい」——多くの方がそう考えます。でも、ここが今回いちばんお伝えしたいところです。良い姿勢とは、胸を張ってピンと固めることではありません。
胸を張ろうと頑張りすぎると、次のようなことが起きやすくなります。
| 腰が反りすぎる | 胸を張るつもりが腰でそらせてしまい、今度は腰に負担がかかる |
| 肩に力が入る | 肩をすくめるように力んでしまい、かえって肩や首がこわばりやすい |
| 長続きしない | 力で固めた姿勢は疲れるため、気づくと元の姿勢に戻ってしまう |

研究でも、肩甲骨に注目した運動は肩の痛みや動かしやすさの改善に役立つ可能性がある一方で、肩甲骨の位置そのものを大きく作り変えるとは限らないことが報告されています。つまり、見た目の姿勢を無理に矯正することにこだわるより、肩や肩甲骨が「楽に動ける」状態を取り戻すことのほうが、実は大切なのです。
もうひとつ、安心していただきたいことがあります。肩甲骨の動きに左右差やクセがあること自体は、痛みのない人にもよく見られる、珍しくないことです。「自分の肩甲骨はズレている」と不安になる必要はありません。目指したいのは、完璧な姿勢ではなく、痛みが出にくい動き方を少しずつ取り戻すことです。

肩の痛みを減らすために見直したい3つのポイント

固めるんじゃなくて、ゆるめるんだね。具体的には何をすればいいの?

肩甲骨をやさしく寄せること、それと道具に体を預けてゆるめること。腕を無理に上げないから、痛みが出ない範囲で試しやすいよ。
ここからが実践パートです。難しく考える必要はありません。胸を張って姿勢を作るのではなく、肩甲骨をやさしく寄せたり、体を道具に預けてゆるめたりする。どれも腕を高く上げにくい動きなので、痛みが出ない範囲であれば、肩に不安がある方でも取り入れやすい方法です。肩甲骨を安定させる運動と背中(胸椎)をゆるめる運動を組み合わせると、姿勢や肩のつらさ、呼吸のしやすさに良い変化が見られたという研究も報告されています。
肩甲骨をやさしく寄せる

反対側の肩甲骨を、やさしく後ろに寄せます。肩をすくめないように気をつけながら、左右の肩甲骨を軽く寄せて、すっと力を抜く——これをゆっくり繰り返します。
肩甲骨を寄せる動きをすると、その反対側にある胸の前の筋肉が自然にゆるみやすくなります(神経のはたらきによるものです)。実際、運動プログラムに胸の前のストレッチを足しても、追加の効果ははっきりとは確認されなかったという報告もあり、無理に胸を大きく伸ばさなくても、肩甲骨をやさしく動かすことで、胸の前や背中の緊張をゆるめるきっかけになることがあります。腕を高く上げないため、痛みが出ない範囲であれば、肩に不安がある方でも取り入れやすい方法です。
ストレッチポールで背中・胸を開く

2つ目は、ストレッチポールを使う方法です。背骨に沿ってポールを縦に置き、その上に仰向けで寝るだけ。腕は痛くない低い位置で楽に開いておくと、自分で力を入れなくても、重力でゆっくり胸が開いて背中もゆるみます。丸まりがちな背中(胸椎)を、無理なく動かしやすくしてくれます。
ポイントは、痛みを出さず「気持ちいい」と感じる範囲で、深呼吸をしながら30秒〜1分ほど預けることです。
フォームローラーで肩甲骨まわりをほぐす

3つ目は、フォームローラーで肩甲骨のまわりをほぐす方法です。ローラーを背中の下に横向きに置き、体を預けて軽く上下に転がすと、こり固まりやすい背中や肩甲骨まわりをゆるめるきっかけになります。①の「肩甲骨を寄せる」が前側からのケアなら、こちらは後ろ側からのケア。前後からやさしく動かすことで、肩甲骨が動きやすい状態を作りやすくなります。
こちらも自分で力を入れて伸ばす必要はなく、体を預けるだけなので、痛みが出ない範囲であれば、肩に不安がある方でも取り入れやすい方法です。首のすぐ下や腰など、骨の出っ張る部分は避け、痛気持ちいい範囲で行いましょう。
ローラーの硬さが気になる場合は、バスタオルを丸めたもので代用できます。ハーフカットタイプのポールも、平らな面が床につくため安定しやすく、初めて使う方にも取り入れやすい形状です。
🔍 PT視点|すぐ変わらなくても大丈夫
姿勢や肩の動きは、一度や二度で大きく変わるものではありません。研究でも、こうしたケアは数週間ほど続けることで変化が出やすいと報告されています。1日に何回もやる必要はないので、「気づいたときに、痛くない範囲で」を合言葉に、無理なく続けてみてください。
こんな肩の痛みは早めに病院へ
姿勢や動きの見直しは、あくまで「健康な範囲の肩のつらさ」に向けたものです。次のような症状があるときは、姿勢のセルフケアで様子を見るより、整形外科などの医療機関に相談することをおすすめします。
⚠️ 早めに医療機関へ相談したいサイン
- 夜、寝ているときにも強く痛む(夜間痛)
- じっとしていても痛みが強い
- 腕が思うように上がらない
- 手や腕にしびれがある
- 転倒やぶつけたあとから痛みが出た
- 痛みが長引いている・だんだん強くなっている
これらは、姿勢以外の原因が隠れていることがあります。気になる症状があるときは、自己判断せず医療機関で相談してください。
📖 こんな方は、一度読んでみてください
- ✅ 姿勢を意識しているのに、肩の痛みや重さが変わらない
- ✅ ストレッチをしても、肩まわりの硬さがまた戻ってくる
- ✅ ストレッチや姿勢を意識しているのに、また肩が痛くなる
体の使い方のクセは、自分ではわかりにくい部分が多いものです。気になる方は、専門家に一度動きを見てもらう機会を作ってみてください。
▶ ヨガ・ピラティスの違いと選び方を見るまとめ|肩の痛みは姿勢だけでなく、背中と肩甲骨の動きも見直そう

つまり、姿勢を正そうとして頑張りすぎなくていいってこと?

そう。固めるより、動きやすくする。肩に負担が集まりにくい体に、少しずつ整えていけばいいんだ。
肩の痛みは、姿勢の悪さだけが原因とは限りません。でも、猫背や巻き肩が続くと、肩甲骨が動きにくくなり、肩に負担が集まりやすくなることがあります。だからこそ、大切なのは——
| 胸を張って固めない | 力で姿勢を作ると、腰や肩に別の負担が出て、長続きしにくい |
| 動きやすい状態を作る | 胸の前・背中・肩甲骨が動きやすくなると、肩に負担が集まりにくくなる |
| 完璧を目指さない | 肩甲骨のクセは誰にでもある。痛みが出にくい動き方を少しずつ取り戻す |
「姿勢を正す」のではなく、「肩に負担が集まりにくい体に整える」。この視点で、できることから無理なく続けてみてください。毎日の暮らしを肩のつらさを気にせず楽しめるように——その土台づくりを、今日から少しずつ始めていきましょう。
記事で紹介した肩甲骨を寄せる動きやストレッチポールは、1日1〜2分でも続けると変化が出やすくなります。わんこのお世話やお散歩のついでに、ふと体を動かす習慣が積み重なると、肩に負担がかかりにくい体に少しずつ近づいていきます。
🧘 姿勢・肩甲骨の動きを本格的に見直したい方へ
自分でケアを続けても変化を感じにくい場合は、体の使い方を専門のインストラクターに見てもらうのも有効です。マシンピラティスはインナーマッスルを使いながら体幹・肩甲骨まわりを動かすため、姿勢や体の使い方を見直したい方と相性の良い選択肢です。ヨガ・ピラティス・ストレッチ専門店の違いや選び方は、下の記事で比較しています。
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参考文献
- Barrett E, et al. (2016). Is thoracic spine posture associated with shoulder pain, range of motion and function? A systematic review. Manual Therapy. PubMed
- Kong LJ, et al. (2013). Massage Therapy for Neck and Shoulder Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. PMC
- Kim D, et al. (2021). Effects of a combination of scapular stabilization and thoracic extension exercises for office workers with forward head posture. Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation. PMC
- Alghadir AH, et al. (2023). The Combined Effect of the Trapezius Muscle Strengthening and Pectoralis Minor Muscle Stretching on Correcting the Rounded Shoulder Posture. Healthcare. MDPI
- Bury J, et al. (2024). Effect of scapular stabilization exercises on subacromial pain syndrome: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Neurology. Frontiers

