正座から立つと膝が「ガクッ」と鳴る|MRIで異常なしだった症例を理学療法士が解説

床に座った姿勢から立ち上がろうとして、膝から下に手を当てる女性と、そばに寄り添うトイプードル

「正座から立ち上がると、膝がガクッと鳴る」

「痛くはないけれど、毎回大きな音がして気になる」

「レントゲンやMRIでは異常なしと言われた」

膝の音そのものは、決して珍しいものではありません。

しかし先日、臨床で経験したのは、深く膝を曲げたあと、伸ばしていく途中で、毎回ほぼ同じように大きな弾響(だんきょう=はじけるような音)が起こるケースでした。

一般的な関節の音とは少し違い、膝の外側から後ろにかけて何かが引っ掛かり、それが一気に外れるような「ガクッ」という感覚を伴っていました。痛みはありませんでしたが、ご本人は立ち上がるたびに生じる音と引っ掛かりを、不安に感じておられました。

画像検査で大きな異常が見つからないと、「気のせいなのかな」と感じてしまう方は少なくありません。

ですが、画像に写らなくても、症状が出る動作を詳しく確認していくと、手掛かりが見つかることがあります。この記事では、その評価の過程を、できるだけそのままの形でご紹介します。

📌 はじめにお読みください

この記事は、実際に経験した症例を、個人が特定できない形に変更したうえで、医学文献を参考にしてまとめたものです。

膝の音には、半月板の損傷、腱の弾発、関節内の遊離体(関節のなかにできた小さな骨や軟骨のかけら)など、さまざまな原因があります。この記事だけで病名を判断することはできません。

痛み、腫れ、ロッキング(膝が途中で動かなくなる)、膝が最後まで伸びないなどの症状がある場合は、整形外科へご相談ください。

📋 この記事でわかること(5つのポイント)

  1. 膝が鳴ること自体は、痛みのない人にもよくある
  2. それでも「毎回同じように鳴る」場合は、動作を確認する価値がある
  3. 今回の評価では、膝窩筋(しつかきん)という膝裏の筋肉の周辺に強い圧痛があった
  4. 下腿(ひざから下)の向きを変えると、毎回鳴っていた音が消えた
  5. 膝裏を自分で強く押すセルフケアは、避けたほうがよい

なかじま(理学療法士・PT)

整形外科クリニック・スポーツ現場での勤務を経て、現在はわんことの生活を楽しみながら、わんこ旅と体のケアについて発信中。理学療法士の視点から、日常生活で役立つ体の使い方やセルフケアを紹介しています。

膝が鳴ること自体は、珍しくありません

のあ
のあ

膝がポキポキ鳴るのって、悪いことなの?

ぷっく
ぷっく

音があるだけで痛みがない人は、実はけっこう多いんだ。まずはそこから見ていこう。

膝を曲げ伸ばししたときの音は、痛みのない方にもよくみられます。

2024年に発表された系統的レビュー・メタ分析では、症状のない人でも膝の音(クレピタス)がみられる割合は、統合すると約36%と報告されています(※1)。3人に1人ほどの計算です。

ただし、この研究は「だから音はまったく気にしなくてよい」とまでは述べていません。同じ研究では、膝の音がある人はレントゲン上の変形性膝関節症の所見をもつ確率が高かった一方で、痛みや生活のしづらさ、筋力とは関連がみられなかったと報告されています(※1)。

つまり、現時点で整理できるのは次のようなことです。

音があること自体 痛みのない人の約3人に1人にみられ、それだけで異常とは言えない
痛み・機能との関係 研究上は、音の有無と痛み・生活のしづらさ・筋力との関連はみられなかった
注意したい場合 痛み・腫れ・引っ掛かり・膝が伸びきらないなどを伴うとき。また、音の性質や頻度が変わってきたとき

今回のケースが少し違っていたのは、音の再現性がとても高かった点です。

たまたま鳴る、というものではなく、深く曲げてから伸ばすと、ほぼ毎回、同じような角度で、同じような大きさの音が出る。しかも「ポキッ」という乾いた音ではなく、何かが引っ掛かってから外れる「ガクッ」という感覚を伴っていました。

この「毎回、同じように起こる」という点が、評価を進める手掛かりになりました。

【症例】評価で分かったこと

ここからは、実際にどう考えて、どう評価対象を絞っていったのかをご紹介します。

まず、確認できていた情報を整理します。

主な訴え 膝を曲げた状態から伸ばすときの、痛みを伴わない「ガクッ」「ゴクッ」という比較的大きな音
出やすい場面 正座や床からの立ち上がり。深く曲げたあとほど再現されやすい
痛み なし。ただし引っ掛かり感と、音そのものへの不安がある
画像検査 レントゲンで明確な異常なし。静止した状態でのMRIでも、音の原因となる明確な異常は指摘されていない
膝の動く範囲・筋力 いずれも明確な制限・低下はみられなかった

まず考えたのは、半月板や膝のお皿まわりの問題でした

膝の引っ掛かりやクリック音を聞いたとき、最初に確認したいのは、半月板などの関節のなかの組織です。

半月板に問題があるときには、次のような症状を伴うことがあります。

  • 関節のすき間(関節裂隙)の痛み
  • ひねったときの痛み
  • 膝が途中で動かなくなるロッキング
  • 腫れ
  • 体重をかけたときの痛み

しかし今回は、痛み・腫れ・ロッキングのいずれもなく、半月板を積極的に疑う所見は乏しい状態でした。

続いて、膝のお皿と太ももの骨のあいだの関節(膝蓋大腿関節)、外側側副靱帯、腸脛靱帯、大腿二頭筋腱など、膝の前面から外側にかけての組織を順番に確認していきました。

それらにも、今回のような大きな弾響を十分に説明できる明確な所見は見つかりませんでした。

ここで大切なのは、「所見がなかった=完全に除外できた」わけではないということです。あくまで「今回の評価の範囲では、積極的に疑う理由が乏しかった」という段階です。

唯一、強い反応があったのが膝窩筋でした

膝の外側から後ろにかけて、ていねいに確認していったところ、膝窩筋(しつかきん)の周辺に、特徴的な強い圧痛が認められました。

膝窩筋は、膝の裏側の深いところにある、小さな筋肉です。

伸びきった膝を曲げ始めるときに、すねの骨をわずかに内側へ回す働きがあり、「膝のロックを外す鍵」と表現されることもあります。また、膝の外側の安定性や、外側半月板の動きの調整にも関わるとされています(※2)。

一般の方に説明するときは、「膝の曲げ伸ばしをスムーズに始めるための、小さな調整役」とお伝えしています。

ただし、圧痛があるというだけで原因を決めることはできません。押して痛い場所が、必ずしも音の出どころとは限らないからです。

そこで次に、「膝窩筋が関わる下腿の回旋を変えたら、音も変化するのか」を確かめてみることにしました。

下腿を内側へ誘導すると、毎回鳴っていた音が消えました

まず、通常どおり深く膝を曲げてから伸ばしていくと、やはり「ガクッ」という音が再現されました。

ところが、下腿(ひざから下)を軽く内側へ回す方向に誘導したまま、同じ動作を行うと、それまで毎回生じていた弾響が消失しました。

力任せに押さえつけたわけではありません。下腿の向きを、ごくわずかに変えただけです。

さらに、膝に軽く内反・外反方向の誘導を加えた場合にも、音が小さくなる変化がみられました。

この結果から、次のように考えました。

💡 この時点で考えたこと

  • 関節のなかで気泡がはじけるだけの音では、説明がつきにくそうだ
  • 膝の外側にある腱や軟部組織の通り道が関係している可能性がある
  • とくに、下腿の回旋に関わる膝窩筋腱の滑走(すべり)が関係している可能性がある

ここで初めて、「膝窩筋腱弾響症候群」という病態が候補として浮かんできました。

ただし、繰り返しになりますが、この評価だけで診断が確定するわけではありません。下腿を内側に回すと音が消えたという所見は、膝窩筋腱が原因だと決められるほど特異的な検査ではないからです。この点は、記事の後半でもう一度触れます。

のあ
のあ

向きを変えただけで音が消えるなんて、探偵みたい!

ぷっく
ぷっく

でも「消えた」は手掛かりであって、答えじゃないんだ。ここからが慎重なところだよ。

疑われたのは「膝窩筋腱弾響症候群」という珍しい病態です

膝窩筋腱弾響症候群(snapping popliteus tendon syndrome)は、膝の曲げ伸ばしにともなって膝窩筋腱が大腿骨外側顆(太ももの骨の外側の出っ張り)のあたりで弾発し、膝の外側の弾響や痛みを生じる病態として報告されています。

これまでの症例報告では、次のような特徴が挙げられています。

症状の出る場所 膝の外側から後外側
出るタイミング 膝の曲げ伸ばしにともない、再現性をもって生じる。屈曲20〜40度あたりで起こったとする報告がある
診察所見 膝窩筋腱の周辺に圧痛。Cabot徴候(あぐらのような肢位で膝を伸ばしながら外側を触れる検査)が有用だったとの報告がある(※3)
画像検査 レントゲン・MRIでは異常が指摘されないことがある
確定の方法 関節鏡で腱の弾発を直接確認した報告が中心

たとえば2022年に報告された症例では、3年間にわたり膝の外側の痛みをともなうポッピングが続いていた10代の患者さんについて、レントゲンでもMRIでも異常が見つからず、関節鏡で初めて膝窩筋腱まわりの肥厚した組織と骨の出っ張りが確認されています(※4)。

また、若い女性の症例では、7年間にわたって症状が続き、複数の医師や理学療法士のもとで評価・治療を受けても改善しなかった経過が報告されています(※5)。3例の関節鏡所見をまとめた報告でも、「まれな原因であり、診断が難しい」ことが指摘されています(※3)。

⚠️ 今回のケースが「典型例」と一致するとは限りません

これまでの報告は痛みをともなう症例が中心です。今回のように痛みのないケースが、文献上の典型例とそのまま重なるとは限りません。報告の数自体が少なく、一般的な膝の疾患のように診断基準や保存療法が確立しているわけでもない、という前提でお読みください。

ピンと張った弦が、骨の上で弾けるようなイメージ

イメージしやすいように、たとえてみます。

ピンと張った琴やギターの弦が、途中にある出っ張りに引っ掛かり、ある瞬間にパチンと乗り越える。そんな場面を想像してみてください。

膝窩筋腱弾響症候群では、膝の曲げ伸ばしにともなって膝窩筋腱の位置や張り具合が変わり、大腿骨外側顆のあたりを通過するときに弾発すると考えられています。

ただし、今回のケースで、腱が実際に骨の出っ張りを乗り越える場面を画像で確認したわけではありません。

あくまで、

  • 音が発生している位置
  • 膝窩筋まわりの圧痛
  • 下腿の回旋を変えたときの弾響の変化

という3つを合わせて考えた、臨床上の仮説としてご理解ください。

MRIで異常がなくても、動作中だけ起こる問題は分からないことがあります

のあ
のあ

MRIで異常なしって言われたのに、なんで音が鳴るの?

ぷっく
ぷっく

MRIは「止まっているとき」の写真だからね。動いている途中の出来事は、写らないことがあるんだ。

MRIは、半月板、靱帯、軟骨、腱などの形を確認するうえで、とても重要な検査です。これは変わりません。

一方で、通常のMRIは止まった状態で撮影されます。

そのため、「膝を曲げ伸ばししている途中だけ、腱が引っ掛かる」といった動きのなかで起こる現象は、撮影中に再現されなければ捉えにくいことがあります。実際に、先ほど紹介した症例でも、レントゲン・MRIでは異常が指摘されませんでした(※4)。

ただし、ここは誤解されやすいところなので、はっきりお伝えします。

🔴 「MRIで異常なし=膝窩筋腱弾響症候群」ではありません

MRIで明確な異常がないことは、この病態を示すものではありません。ほかの原因も含めて、症状が出る動作を実際に確認していくことが大切です。画像検査や医師の診断を否定するものではなく、画像と動作の両方をあわせて考える、という意味です。

なお、動かしながら腱の走行を観察できる動的超音波検査(ダイナミックエコー)は、こうした弾発の評価に役立つことがあると報告されています(※6)。ただし、これも「動的超音波なら必ず分かる」というものではありません。誰が、どの角度で、どの動作を再現しながら観察するかによって、見え方は変わります。

なぜ正座のあとに鳴りやすかったのか

ここからは、今回のケースについて考えた仮説です。確立された発症のしくみとして読まないでください。

膝を深く曲げると、膝の外側から後ろにかけての腱や筋肉の位置関係が、大きく変わります。

そこから体重をかけて立ち上がるときには、次のことが同時に起こります。

  • 膝を伸ばす力が働く
  • 下腿が回旋する
  • 太ももの骨とすねの骨の位置関係が変わる
  • 大腿二頭筋や膝窩筋などの筋肉の張り具合が変わる

今回のケースでは、深く曲げたあとに弾響が再現され、下腿を内側へ回す方向に誘導すると消失しました。

そこから、「深く曲げた状態から伸ばしていく途中の下腿の回旋と、膝窩筋腱まわりの滑走が関係していた可能性」を考えました。

正座から立ち上がる動作は、この「深く曲げてから、体重をかけて伸ばす」という条件がそろいやすい動きです。床に座ってわんこのブラッシングをしたあとや、トイレシートを替えたあとに立ち上がるときなど、日常のなかで繰り返される場面でもあります。

外側ハムストリングスの硬さも確認しました

大腿二頭筋(太ももの裏の外側にある筋肉)は、膝を曲げる働きに加えて、膝を曲げた状態で下腿を外側へ回す働きがあります。

そのため、この筋肉の緊張が強かったり、左右差があったりすると、膝の曲げ伸ばしのときの下腿の回旋に影響する可能性があります。

今回は、

  • 大腿二頭筋の緊張
  • 下腿を内側へ回したときの動かしやすさ
  • 膝の曲げ伸ばしのときの回旋のパターン

を確認し、膝窩筋だけでなく、下腿の回旋に関わる周囲の組織も含めて、どこから介入するかを考えました。

ここも大切な点です。「大腿二頭筋の硬さが原因だった」とは考えていません。弾響が起こりやすい条件をつくっていた、ひとつの要素だった可能性がある、という位置づけです。筋肉の硬さだけで膝の音を説明することはできません。

膝がガクッと鳴る原因は、膝窩筋腱だけではありません

膝の音や引っ掛かりを起こしうるものは、ほかにもあります。代表的なものを整理しました。

考えられる原因 主な特徴
外側半月板の損傷・不安定性 関節のすき間の痛み、引っ掛かり、ロッキング、腫れなどをともなうことがある
大腿二頭筋腱の弾発 腓骨頭(膝の外側にある骨の出っ張り)付近で弾ける感覚が出ることがある
腸脛靱帯の弾発・腸脛靱帯炎 膝の外側の痛みをともないやすく、ランニングなどで症状が強くなることがある
膝のお皿まわり(膝蓋大腿関節) 膝の前面の違和感。階段やしゃがみ込みで症状が出ることがある
滑膜ヒダなどの関節内の組織 膝の前内側のクリック音や引っ掛かりを生じることがある
関節内の遊離体 急なロッキングや、症状が出る位置が変わることをともなうことがある
膝窩筋腱の弾発 膝の外側から後外側で、曲げ伸ばしにともなう再現性のある弾響が報告されている

この表は、原因の幅を知っていただくためのものです。症状の特徴が似ていても、この表だけでご自身の状態を判断することはできません。気になる場合は、整形外科で確認してください。

痛みがなくても、変化があれば経過を確認しましょう

「このまま放っておいて大丈夫でしょうか」というご質問は、とてもよくいただきます。

現時点で痛みがない場合、すぐに腱や半月板が傷むとは限りません。また、痛みのない弾響が、将来かならず膝窩筋腱の炎症などに進行するという十分なデータもありません。

参考になる報告として、膝窩筋腱の弾発を認めた6例をまとめた研究があります。このうち手術をせずに経過をみた4例では、2例で音が自然になくなり、1例は音が残ったものの手術が必要なほどではなく、1例が後に手術を受けたと報告されています(※7)。

ただしこの報告は、痛みをともなう症例を対象としたものです。今回のような痛みのないケースの経過が、そのまま同じようになるとは限りません。痛みのない弾響について、その後どうなるのかを調べた研究は、現時点では限られています。

そのうえで、次のような変化がある場合は、様子をみるだけにせず、相談をおすすめします。

  • 音が出る回数が増えてきた
  • 引っ掛かる感じが強くなってきた
  • 膝の外側や後ろに痛みが出てきた
  • 腫れや熱っぽさをともなうようになった
  • 音を避けようとして、不自然な立ち方になっている

こうした変化がある場合は、腱のまわりに繰り返し刺激が加わっている可能性や、別の病態が関係している可能性が考えられます。痛くなるまで放置せず、整形外科などでご相談ください。

なお、解剖学的には、膝の外側の組織に繰り返し負担が加わることで、周囲へ影響が波及する可能性も考えられます。ただし、痛みのない弾響がそうした状態へ進行することを示す十分な研究は確認できませんでした。「放っておくとこうなる」という断定は、現時点ではできません。

医療機関では、音だけでなく膝の回旋を評価します

今回、実際に行った評価と考え方の流れをご紹介します。

1 膝窩筋まわりの圧痛と緊張を確認する
2 大腿二頭筋など、下腿の回旋に関わる筋肉を確認する
3 下腿を内側・外側へ回したときの動きやすさの左右差をみる
4 音が出る動作そのものを観察する
5 下腿の回旋方向を軽く誘導したときに、音がどう変化するかをみる
6 無理のない範囲で、周囲の筋肉の緊張を調整する
7 弾響が出にくい軌道で、膝の曲げ伸ばしを練習する
8 正座や床から立ち上がるときの動作の仕方を調整する

ここで大切にしているのは、音が出ている場所を強く押して、音を消そうとすることではありません。

下腿の回旋や周囲の筋肉の緊張も含めて、「どの動かし方なら音が減るのか」を一緒に探し、その軌道を体に覚え直してもらうことを重視しました。

そして、介入した直後に変化があったとしても、それは「治った」ということではありません。「一時的に弾響が軽くなった」「動かし方によって変化することが確認できた」という段階です。この違いは、患者さんにも必ずお伝えするようにしています。

自宅では膝裏を強く押さず、外側ハムストリングスから整える

🔴 膝裏を自分で強く押すのは避けてください

膝の裏の中央には、膝窩動脈・膝窩静脈・脛骨神経といった、体にとって重要な血管や神経が通っています。

とくに、次のような方法は行わないでください。

  • 膝裏の中央を強く押す
  • 脈を感じる場所を押す
  • 痛みやしびれが出るまで圧迫する
  • 硬いボールを膝裏に挟んで体重をかける

膝窩筋を自分で直接ほぐそうとするのは、安全面からおすすめできません。ここでご紹介するのは、そのまわりから無理なく整えていく方法です。

外側ハムストリングスの軽いストレッチ

  • 椅子に浅く座る
  • 片脚を前へ伸ばす
  • 膝は伸ばしきらず、軽くゆるめておく
  • 背中を丸めず、股関節から少しだけ前へ倒れる
  • 太ももの裏から外側にかけて、軽く伸びる位置で止める
  • つま先は正面か、ごく軽く内側に向ける程度でかまいません
  • 20秒ほどを1〜2回

強い痛み、膝の引っ掛かり、しびれが出た場合は中止してください。強くねじる方法は行わないでください。

音が出ない範囲での膝の曲げ伸ばし

  • 椅子に座る
  • 足の裏を床につける
  • 膝を浅い範囲で、ゆっくり曲げ伸ばしする
  • 音を無理に再現しない
  • 下腿を手で強くねじらない
  • 10回程度から始める

痛みや引っ掛かりが増えるようであれば、中止してください。

日常生活での工夫

  • 繰り返し音が出る「正座からの立ち上がり」を、しばらく減らしてみる
  • 床から立つときは、手をついたり、片膝立ちを経由したりする
  • 勢いよく膝を伸ばさない
  • 音を確かめるために、何度も再現しない

最後の項目は、意外と見落とされがちです。「まだ鳴るかな」と何度も確認したくなりますが、そのたびに同じ刺激を繰り返すことになります。

ここで挙げたセルフケアの目的は、ご自身で診断することでも、腱を直接治療することでもありません。症状を繰り返し誘発せず、まわりの過度な緊張を減らすことが目的です。医療機関での評価の代わりになるものではありません。

のあ
のあ

膝の裏、気持ちよさそうだからグリグリしちゃいそう…

ぷっく
ぷっく

そこは大事な血管と神経の通り道。押すより、まわりからゆるめるほうがいいよ。

こんな症状があるときは整形外科へ

次のいずれかにあてはまる場合は、セルフケアだけで様子をみず、整形外科へご相談ください。

  • 膝に痛みがある
  • 膝が腫れている
  • 熱を持っている
  • 膝が最後まで伸びない
  • 途中で完全に引っ掛かる、ロッキングする
  • 膝崩れ(急に力が抜ける)を繰り返す
  • 転倒やスポーツでのケガのあとから始まった
  • 症状が急に悪くなった
  • 体重をかけられない
  • しびれや、足の冷たさをともなう
  • 数週間たっても変化がない
  • 日常生活への支障が大きい

また、レントゲンやMRIで異常なしと言われたけれど症状が続いているという場合も、もう一度評価してもらうことを相談してよいと思います。「異常なし」と言われたあとに、そのままにされている方は少なくありません。

受診先に迷う場合は、まず整形外科へ。膝の音や引っ掛かりが出る具体的な動作を、その場で再現してみせられると、評価の助けになります。

セルフチェック

ご自身の症状を整理するときの、参考にしてみてください。

  • ☐ 正座や、深くしゃがんだあとに鳴りやすい
  • ☐ 膝を伸ばす途中で「ガクッ」となる
  • ☐ 音が出る場所は、膝の外側から後ろに感じる
  • ☐ 毎回ほぼ同じ角度・同じ動作で再現する
  • ☐ 痛みはほとんどない
  • ☐ レントゲンやMRIで、明確な異常を指摘されていない

当てはまる項目が多くても、膝窩筋腱弾響症候群とは限りません。半月板、大腿二頭筋腱、腸脛靱帯などでも似た症状が出ることがあります。チェックの数で判断はできません。症状が続く場合は、専門家による評価が必要です。

受診の際は、次の3つをメモしておくと伝えやすくなります。

  • どの角度で鳴るか(曲げ始め・伸ばす途中・伸びきる直前など)
  • どこに感じるか(前・外側・後ろ・お皿のあたり)
  • どんな感覚か(乾いた音・引っ掛かってから外れる感じ・ずれる感じ)

医療従事者向け:今回の臨床推論

ここからは、理学療法士・柔道整復師・トレーナーなど、運動器に関わる方に向けた補足です。一般の方は、読み飛ばしていただいてかまいません。

再現条件

  • 深屈曲後の伸展で弾響が再現
  • 無痛性
  • 他動的に下腿内旋位を保持して伸展すると弾響が消失
  • 軽度の内反・外反誘導でも減弱
  • 膝窩筋周辺に強い圧痛
  • ROM・主要筋力に明確な低下なし
  • X線・静的MRIで弾響の原因となる明確な異常の指摘なし

今回考えた仮説

  • 膝窩筋腱、または膝外側軟部組織の滑走変化
  • 下腿回旋運動との関連
  • 大腿二頭筋など、外旋に関与する筋緊張の影響
  • 深屈曲後における膝外側組織の位置関係の変化

注意点(この推論の限界)

  • 下腿内旋位保持で弾響が消失したことは、膝窩筋腱由来を確定する特異的検査ではない
  • 内反・外反誘導による変化も、複数の外側組織の張力変化で説明できる可能性がある
  • 圧痛のみでは原因組織を特定できない
  • 動的超音波・関節鏡による確認は行っていない
  • 本推論は、臨床所見を統合した仮説である
  • 無痛性症例の自然経過や、理学療法の効果に関する研究は限られている

文献と一致しなかった点

今回の所見のうち、既報と合致しない部分があったため、あえて記載しておきます。

膝窩筋腱の弾発については、内反ストレスによって弾響が増強すると報告されています(※3、※7)。一方、今回のケースでは内反・外反いずれの軽度誘導でも弾響は減弱しました。

この点は、

  • 誘導の程度・肢位が既報の検査手技と異なっていた
  • 弾響の主体が膝窩筋腱以外の外側組織である
  • 無痛性という点も含め、既報の典型例とは異なる病態である

など、複数の解釈が可能です。少なくとも、今回の所見をもって「文献と同じ病態である」と結論づけることはできません。

次に検討したい評価

  • Cabot徴候:背臥位で患側をfigure-of-four肢位とし、外側関節裂隙を触知しながら自動伸展させる。3例の関節鏡確認例において、唯一一貫して陽性だった臨床所見と報告されている(※3)
  • 動的超音波:弾響が再現される角度での膝窩筋腱の走行観察(※6)
  • 外側半月板の可動性評価:膝窩半月板束(popliteomeniscal fascicles)の破綻では外側半月板の過可動性が生じ、痛みやロッキング感を呈するとされる(※8、※9)。無痛性である点は合致しないが、膝窩筋腱と外側半月板は解剖学的に連続しており、鑑別の視野には入れておきたい

1例の経験から一般化はできません。あくまで「こう考えて、こう評価した」という記録として共有します。同様の症例に出会われた方の参考になれば幸いです。

よくある質問

Q. 痛くない膝の音は、放置しても大丈夫ですか?

痛みのない膝の音は、症状のない方の約36%にみられると報告されており、それ自体が異常とは言えません(※1)。ただし「まったく気にしなくてよい」とも言い切れません。音の回数が増えてきた、引っ掛かりが強くなった、痛みや腫れが出てきたといった変化がある場合は、整形外科へご相談ください。

Q. MRIで異常なしでも、膝に問題があることはありますか?

あります。通常のMRIは止まった状態で撮影するため、動いている途中だけ起こる現象は捉えにくいことがあります。実際に、レントゲン・MRIで異常が指摘されず、関節鏡で初めて原因が確認された症例報告があります(※4)。ただし「MRIで異常がない=膝窩筋腱の問題」ではありません。ほかの原因も含めて、症状が出る動作を確認することが大切です。

Q. 自分で膝窩筋をマッサージしてもよいですか?

おすすめできません。膝の裏の中央には膝窩動脈・膝窩静脈・脛骨神経が通っており、深く押し込む行為は安全とは言えません。硬いボールを挟んで体重をかける方法も避けてください。ご自宅では、太ももの裏の外側を軽く伸ばすなど、まわりから無理なく整える方法にとどめてください。

Q. 膝が鳴るときは、何科へ行けばよいですか?

まずは整形外科です。受診の際は、どの角度で・どこに・どんな感覚が出るのかを伝えられると、評価の助けになります。可能であれば、その場で音が出る動作を再現してみせてください。すでに理学療法を受けている場合は、担当の理学療法士にも同じ情報を共有してください。

Q. 運動や正座を続けてもよいですか?

痛みがなく、日常生活に支障がなければ、運動をすべてやめる必要はありません。ただし、毎回はっきりと音が出る動作については、しばらく回数を減らしてみるとよいと思います。正座から立つ場面では、手をつく、片膝立ちを経由するなど、同じ動きを繰り返さない工夫が役立ちます。音を確かめるために何度も再現するのは、避けてください。

まとめ

膝の音そのもの 痛みのない方の約3人に1人にみられ、それだけでは異常とは言えない
今回の評価 膝窩筋まわりに強い圧痛。下腿を内側へ誘導すると、毎回鳴っていた音が消失した
そこから考えたこと 膝窩筋腱の滑走が関係している可能性。ただし、この評価だけで確定はできない
画像検査について 静止した状態の画像では、動作中の弾発を捉えにくい場合がある
自宅でのケア 膝裏を強く押すのは避ける。太ももの裏の外側から、無理なく整える
受診の目安 音・痛み・腫れ・ロッキングが続く、または変化してきた場合は整形外科へ

「画像で異常がないなら、気のせいなのかな」

そう思って、そのままにしている方は少なくありません。

けれど、画像で大きな異常が見つからなくても、実際の動作をていねいに確認していくと、症状を変化させる手掛かりが見つかることがあります。今回のケースでは、下腿の向きをわずかに変えるだけで、毎回鳴っていた音が消えました。

一方で、膝のクリック音には複数の原因があり、音だけで病名を決めることはできません。今回のケースも、あくまで「そう考えた」という段階にとどまります。

繰り返す音や引っ掛かりが気になる場合は、どの角度で、どこに、どのような感覚が出るのかを記録して、整形外科や担当の理学療法士に伝えてみてください。その情報自体が、評価を進めるうえで大きな手掛かりになります。

のあ
のあ

「異常なし」って言われたら、もう終わりかと思ってた。

ぷっく
ぷっく

そこからが始まりのこともあるよ。床から立つ動きは、わんことの暮らしで毎日くり返すものだからね。

参考文献
  1. Noisy knees – knee crepitus prevalence and association with structural pathology: a systematic review and meta-analysis. J Sci Med Sport. 2024. PMID: 39375004
  2. Nyland J, et al. Anatomy, function, and rehabilitation of the popliteus musculotendinous complex. J Orthop Sports Phys Ther. 2005;35(3):165-79. PMID: 15839310
  3. Mariani PP, Mauro CS, Margheritini F. Arthroscopic diagnosis of the snapping popliteus tendon. Arthroscopy. 2005;21(7):888-92. Arthroscopy
  4. Ryu JH, Lee SW, Lee DH. An all-arthroscopic surgery technique for snapping popliteal tendon syndrome: A case report and literature review. Medicine (Baltimore). 2022;101(44):e31347. PMID: 36343076
  5. Krause DA. Snapping popliteus tendon in a 21-year-old female. J Orthop Sports Phys Ther. 2008;38(4):191-5. PMID: 18434667
  6. Marchand AJ, Proisy M, Ropars M, Cohen M, Duvauferrier R, Guillin R. Snapping knee: imaging findings with an emphasis on dynamic sonography. AJR Am J Roentgenol. 2012;199(1):142-50. PMID: 22733905
  7. Cooper DE. Snapping popliteus tendon syndrome. A cause of mechanical knee popping in athletes. Am J Sports Med. 1999;27(5):671-4. PMID: 10496589
  8. Zappia M, Reginelli A, Chianca V, et al. MRI of popliteo-meniscal fasciculi of the knee: a pictorial review. Acta Biomed. 2018;89(1-S):7-17.
  9. D’Addona A, Maffulli N, Formisano S, Rosa D. The popliteomeniscal fascicles: from diagnosis to surgical repair: a systematic review of current literature. J Orthop Surg Res. 2021;16(1):145. PMID: 33610180

※この記事は、実際に経験した症例を個人が特定できない形に変更したうえで、医学文献を参考にまとめたものです。診断や治療を目的としたものではありません。症状の判断は、必ず医療機関で受けてください。(2026年7月時点の情報)

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